『フレーム操作』観客の視線と意識を誘導する「ミスディレクション」の基本にして真髄を学ぶ♠【魔法のレシピ #27】

Text by magician soboga

目次

はいどうもsobogaです。
今回は「ミスディレクション」の初歩編です。技法名的にも記事のタイトル的にも「フレーム操作」という名前をつけましたが、ミスディレクションの基本中の基本の部分だけを指した概念と捉えていただければいいのかなと思います。

Trick Libraryでは、「ミスディレクション」のカテゴリに分類しています。難易度は[中級]です。

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ミスディレクションのよくある説明として、Wikipediaからの引用を紹介しますね。

ミスディレクション(英語: Misdirection)とは、注意を意図していない別の所に向かせる現象やテクニックのこと。主に奇術マジックで用いられ、観客の注意を別の場所にそらす手法として知られる。右手に注目している間に左手で何か種になる動作を行う、などとして使用される。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ミスディレクション

うーん、なんだかわかるようなわからないような抽象的な説明ですよね。
ネット上にはこういった抽象的な概念だけを説明したものが散見されます。「で?具体的な方法は?」ってなりがちです。

今のWikipediaの説明でいうと、「観客の注意を別の場所にそらす」っていうのはわかる。それが目的ですもんね。ただ、「右手に注目している間に」は具体的にどのように右手に注目させればいいのか、「左手で何か種になる動作を行う」とは、左手の位置は?角度は?タイミングは?という感じでほとんどよくわかりません。左手で行う動作にもよるだろうし、両手で種になる動作を行うときはどうすればいいのか?とか疑問が増えていきます。

とういことで、今回はミスディレクションの中でも基本的なスキルのひとつである、観客の視線と意識の誘導方法について解説します。

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フレーム操作

冒頭でも述べましたが、ここではミスディレクションの基本中の基本の部分だけお伝えします。あらゆるシークレットムーブの瞬間、つまり観客に凝視されたくない、意識されたくない瞬間に応用できる「フレーム操作」の方法です。

フレーム操作というのは、映像を撮っているカメラのフレームをイメージしてもらえばわかりやすいかと思います。観客の意識を拡散させたいときにはフレームを広げたり、集中させたい所にフレームを縮めたり、移動させたり。そういうイメージです。

それを行うには、演者の視線移動とセリフによる呼びかけで実現できます。基本的に観客は、演者が見ている所を見るし、演者が話すセリフの内容を理解しようと脳を働かせるからです。

では、演者が観客の目を見て話しかけた場合、観客はどこを見るんでしょうか?そうですね、大抵の観客は演者の顔周辺に視線を移します。目を合わせて話を聞く人や、演者の口元辺りを見る人もいるかとは思いますが、一瞬、演者の手元から視線が外れる人がほとんどです。

この一瞬の隙きを突いてなんらかの技法を行うわけですが、その瞬間を作り出す行為をフレーム操作と呼んでいます。

重要なポイントは「演者の手元から視線は外れるが、視界からは外れていない」ということです。演者の手元に縮まっていたフレームが、演者の顔を中心として手元を含む範囲まで広がっている状態といえます。だからこそ、演者の手元から視線と意識が外れた瞬間があったのにも関わらず「ずっと手元を見ていたはずなのに・・・」という錯覚を作り出すことができるわけです。

具体的なやり方

ということで、以前に解説したインジョグシャッフルで具体的な方法を説明しましょう。インジョグシャッフルを知らない方にもわかるように説明するので安心してください。

インジョグシャッフルというのは、オーバーハンドシャッフル中に1枚のカードでインジョグを作るシャッフルのことですが、両手がシャッフルアクションで塞がっていて何らかのカバーができない剥き出しのシークレットムーブです。普通にやったら観客の視線は演者の手元に集まっていて、その瞬間、観客の中には「ん?」と違和感を抱く人が出てきてもおかしくない技法のひとつです。

このインジョグを作る瞬間を観客に凝視されたくない、意識されたくない瞬間として説明します。まあ本来は、身体やデックの向きなども駆使して複合的に技法を隠すんですが訳わからなくなると思うので、今回は「フレーム操作」だけに注目して解説していきます。

※インジョグはシャッフルアクションの2アクション目に行うこととします。

①シャッフルを始める前は観客の目を見てなんらかのセリフを言っている。
②デックを右手に渡すところからデックを凝視する。
③シャッフルアクションを始める直前に視線を観客の目に戻しつつセリフを言い始める。
④観客の目を見てセリフをいいながらインジョグを作る。
⑤インジョグを作り終えたら視線をデックに移す。

これがフレーム操作の基本です。1行で言い表すと「技法を行う対象を凝視→技法の直前に観客を見る→技法を行う→技法が終わったら対象を見る」ってことです。カメラのフレーム的な言い方をすると「縮めて→広げて→縮める」っていうことですね。

この場合の視線の移動はスムーズかつ速やかに行ってください。スムーズでない極端な視線移動は違和感を抱かせる原因にしかならないので要注意です。

また、セリフの内容も結構重要だったりします。なんのためにセリフを言っているかというと、フレーム操作を補強するために観客の意識を拡散させるのが目的なわけです。

なので、見ればわかるような状況説明ではほとんど効果はありません。今回の例でいうと、「シャッフルします」とか「混ぜておきます」ではダメだし、その内容だとシャッフルしている行為に意識を向けてしまって逆効果になりかねません。

効果的なのは演者の行為とは関係のない問いかけ」です。カード当てのマジックであれば「選んだカードを忘れてないですか?」みたいな質問を投げかけるのが適切です。観客に「考える」という行為をさせるわけですね。

このフレーム操作を行うことで、観客からしたら「シャッフルの動作は視界に入っているけど強く意識できない」という状況を作り出すことが期待できます。

まとめ

これがミスディレクションの基本、フレーム操作のやり方です。
今回はインジョグシャッフルを例に挙げましたが、技法やそれを使う場面が変われば、「動き」と「視線」と「セリフ」のタイミングを変える必要があるし、セリフの内容も考える必要があります。また、技法の瞬間は演者自身も手元を見ないっていうこともあるので、まさに「言うは易く行うは難し」なテクニックです。

さらにいえば、ミスディレクションがちゃんと機能しているかどうかは、実際の人間を相手にしてみないことには確認ができないので、そういった場を作って経験してみる他ありません。

sobogaも「完璧にできるのか?」と聞かれたらぜんぜんまだまだだし、ミスディレクションに終わりはないなと感じています。日々、鍛錬しかないですね。

では、また。

sobogaの蛇足

もしかしたら、この記事ではなく解説動画を見た視聴者の中には「動画を見ている中で、いっさい自分のフレームは縮められたり広げられたりしなかったけど?」って思ったかもしれませんが、それは当たり前で、PCやスマホの画面という固定されたフレーム内で映像を見ているからです。画面内の映像で視線誘導系のミスディレクションを起こそうと思ったら、実際それが現実のマジックの現場でどう役に立つの?っていうくらいの特殊な設定でない限り難しいんですね。

今回のフレーム操作でいえば、実際に目の前にいる観客にしか通用しません。というか、実際に目の前にいる観客に通用させるのが目的の手法ですので、そのつもりで活用していただければと思います。

で、そんなことを考えていたら昔に流行った動画を思い出しまして。もう14年くらい前の動画なので、もしかしたら知らない人もいるかもしれないので紹介しておきます。

黒チームと白チームでバスケットボールのパス回しをしていて、白チームが何回パスをしたか正確に数えられるかをテストする映像』でピンときた方には懐かしの動画です。知らないという方は、この記事を読み進める前にまずは下の動画を見てください。1分ほどの動画なのですぐに見れます。全編英語なので一応説明しておくと、動画タイトルが「Test Your Awareness: Do The Test」で「注意力テスト」ってことですね。動画のはじめに「白チームのパス回数を数えてね」っていう趣旨の説明がされているのでそのつもりで見てみてください。

面白いですよね。「え?クマ?嘘だろ?」ってなってはじめから見直しちゃいますよね。映像ならではの作りになってはいますが、映像で今回のフレーム操作の仕組みを説明するのにぴったりだなと思って紹介しました。目に映っていても意識できなければ見えていないのと同じなんですよね。

で、今の動画と同じようなものがあと2つほどありまして。こちらは『錯覚の科学』という本、原題は”The Invisible Gorilla“(見えないゴリラ)ですが、その本を書かれた心理学者のダニエル・シモンズがアップしている動画で(こちらはクマではなくてゴリラです)、バージョン1とバージョン2があります。どちらも先に紹介した動画と同じ趣旨のものですが、興味があったらぜひ見てみてください。バージョン2、なかなか強烈ですよ。

あと、『錯覚の科学』も面白い本なのでついでにおすすめしておきます。注意力、記憶力、自信、知識、原因、可能性にまつわる日常的な錯覚の話で、人の知覚や知識がいかにあいまいで不十分なものかを立証する内容の一般向けの本です。「見えないゴリラ」の話も出てくるので、動画で見て驚いて、本で読んで納得するという流れで知識を貪ってみてはいかがでしょうか。

ということで、映像内でフレーム操作を行うには「見えないゴリラ」くらいの特殊なことをしなければならないっていう話でしたが、この撮影現場を引きで眺めたらめちゃくちゃ滑稽に映るんだろうなと面白がっているsobogaの蛇足でした。

あらためて、ではまた。

参考文献

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