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はいどうもsobogaです。
今回はフォールスカットの解説回です。フォールスカットは種類が数限りなくあるので、この記事では比較的簡単に習得できて、実戦でちゃんと使えるものに絞って解説しようと思います。
タイトルに「オンハンド」って付けていますので、テーブル上でのフォールスカットではないものを解説します。一部、というかすべてがテーブルも使いますが、ディーリングポジションで始まってディーリングポジションで終わるフォールカットのみを扱います。
また、カードマジック初学者の方にも易しい内容になってますので、フォールスカットの初歩編として捉えていただければいいんじゃないでしょうか。「オンテーブル」なフォールスカットは、また別の回で解説しますね。
この記事で解説するフォールスカットは、YouTube動画の冒頭のパフォーマンス映像でもやっている次の3つです。
- フォールスオープンコンプリートカット
- フォールススイングカット
- フォールストリプルスイングカット
あれ?パフォーマンスでは4つフォールスカットやってない?と気づかれた方もいるかと思います。確かに4つで、最後にダブルカットの変形みたいなやつをやっていますね。当初は4つすべてこの記事で解説しようとしてたんですが、あまりにも長くなりそうだったので4つ目のものは別の記事に分けて解説することにしました。「フォールスダブルカット(改)」という名前で、別記事で公開しますので最後の4つ目のものはそちらを見てください。
Trick Libraryでは、「技法」の「フォールスカット」のカテゴリに分類しています。難易度は[初級〜中級]です。
それでは解説です。
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カットは信頼の証でフォールスカットはそれの裏切り
不穏な章タイトルを付けていますが、はじめにこの記事における「カット」と「フォールスカット」の定義をお伝えしておきます。カジノなんかではカットはシャッフルを補強するためのもので、通常、シャッフルとカットはセットで行われ、カードを混ぜる行為の最後の締めに「何も不正なことはしていない証」として、テーブル上でプレイヤーにはっきり見える形でカットされます。ギャンブルの場においてはデックを手に持ったままカットをするなんて絶対にありえない行為なんですね。
その点でいうと、マジックはトリックを行うことが前提のエンタメなのでユルユルですね。あらゆることがマジシャンの手の上、手の中で行われます。カットも同様に、マジックにおいては演者がデックを手に持ったまま行うカットが数多く存在します。
今から解説するフォールスカットは、デックを手に持ちながら行う普通のカットに見えて、一切のカットはせずにデック全体の並びを変えない方法です。「普通のカット」というのがポイントで、本当に様々なフォールスカットがありますが、普通のカットに見えるものだけを解説していきます。
裏切るなら「ちゃんと裏切る」のが今回の解説のコンセプトです。観客の目には、何も特別なことはしていないように映るのがこの技法の目的です。
フォールスオープンコンプリートカット
ちゃんとした技法の名称がわからないので、ここで適当に付けた名前ですが、魔法のレシピで「オープンコンプリートカット」と呼んでいるカットに見えるフォールスカットです。左の写真のカットではなくてオープンな右の写真ですね。
やっていることはめちゃくちゃ単純かつ大胆で、右手でデックの下半分を引き抜いてテーブルに置いて、その上にデックの上半分を重ねているだけです。一旦2つに分けて元に戻しているだけの極めてシンプルなフォールスカットですね。
こんなものが通用するのかと思われるかもしれませんが、適切なミスディレクションが掛かっていればちゃんと通用します。逆に言えば、適度なミスディレクションが必須のフォールスカットです。デックを2つに分ける直前から、下パケットをテーブルに置くまでの間は、観客に顔を向けてしゃべりながら行ってください。魔法のレシピでは、観客の視線や意識の誘導を「フレーム操作」と呼んでいますが、それの詳細については「フレーム操作」の解説を参照してください。
まあ、これだけの超シンプルな技法なので細かい解説はいらない気もしますが、大事なポイントを3つお伝えしておきます。えっと、一応お断りしておきますが、ここから先の詳細はカードマジック初学者の方にはちょっと厳しいというか難しい話になります。プロの現場で使うなら押さえておきたいポイントと思って聞いてください。
変な動きはしない
変な動きというのは上の写真の動きのことです。
下パケットの軌道を、演者の手前を経由して上パケットの上を通してテーブルに置くようにすると、パケットを上から取ったように錯覚させることができる、という解説を見たり読んだりしたことがある人もいるかと思います。
ただ、個人的にはホントに?そんなことないんじゃないかな〜と思っていたりします。下パケットを引き抜く瞬間は注目されたくない瞬間なわけで、この動きをやることで逆に動きが悪目立ちしてしまって逆効果になりかねないと考えています。
そもそも普通にカットをするときに、そんな右手を回転させるような動きしますっけ?しないですよね。観客からはそのように見えるっていうことですから、ちょっと、うーん、かなり?ありえないかなと思います。
ちゃんとフレーム操作をすれば、こんな変な動きでごまかそうとしなくても大丈夫です。
パケットがしっかり揃ったまま技法を行う
何も考えず縦方向にデックを二分すると、こんなふうにカードのズレが発生してしまいます。普通にカットをした場合に縦方向のカードのズレは発生し得ないので、これはダメですね。
どうするかというと、左手親指でデックの上半分を、右手親指で下半分を押さえて、手前のサイドを軽く2つに分けてからパケットを移動させることでズレを回避できます。
右手の軌道はテーブルに向けて直線的に
縦方向のカードのズレにも関係することですが、下パケットをデックに対して縦に引き抜く動きもおかしな動きです。普通のカットでは元の位置からテーブルまで一直線に向かうはずなので、フォールスカットでもできる限りその動きに近づけるべきです。
魔法のレシピで正解としている動きはこういう動きですね。
どうやっているかというと、左手の持ち方と動きがポイントです。
パケットの縦方向の動きを極力減らすために、左手は親指と中指だけで外エンドぎりぎりの箇所をつかむように持ちます。薬指は中指の上に乗せています。
もしこれが、中指と薬指でこういう持ち方をしていたとすると、薬指の端の位置まで下パケットを縦に引き抜いてからでないと、テーブルの方向(横方向)に移動させられないっていうことです。
なので、観客側のサイドに掛かる指を極限まで減らすと先に説明したこういう持ち方になるわけです。これならほとんど縦移動を意識せずに、スムーズにテーブルに向かって直線的に移動させることができるはずです。
上下のパケットが完全に離れたら、左手は薬指と小指を戻してパケットの保持を補強するようにしましょう。
だいぶ雑味を抑えた、地味で無駄な動きのない、あえて別の言い方をすると「面白みのない」フォールスカットになりましたよね。普通のカットをしただけに見せるためのフォールスカットに、面白みなど一切必要ないはずですね。
フォールススイングカット
- スイングカットをして上パケットを左手に渡す
- 左のパケットを垂直ぎみに立てる
- 右手下パケットの左サイドを左手のパケットのトップにトンと当てて揃える
- 右手の下パケット、左手の上パケットの順にテーブルに落として重ねる
4ステップに分けて説明しましたが細切れにやるのではなくて、これらをスムーズに繋げればそれらしく見えるはずです。
よくよく考えると、ズレてもいないパケットを揃えるという謎の動作が挟まれていますが、なぜかこのアクションを行うことで説得力が生まれ、本当にカットをしたように見えてしまう不思議な技法です。
さて、大事なポイントは2つ。ひとつ目は、先にも書きましたがスイングカットに見せようとしないことです。観客からの見え方を意識しないと意外と気づかないことですが、このフォールスカットは、テーブル上でパケットが重なるコンプリートカットに見えなければならないもので、演者の手の上で重なるスイングカットとして見せるものではないっていうことです。前半のスイングカットの部分は極力小さく、地味に行いましょう。
そして、もうひとつのポイントは、フォールスオープンコンプリートカットと同じことでミスディレクションです。スイングカットを意識されたくないので、そのアクションの前後でしっかりとフレーム操作を行います。演者も、左右のパケットをぶつける瞬間に視線を手元に戻すようにします。パケットをぶつける動きと、パケット同士がぶつかる音と、演者の視線移動によって観客の視線と意識が演者の手元に引き戻されるように誘導してください。
フォールストリプルスイングカット
続いて、これも技法名にスイングカットが入っていますが、こっちは本当にスイングカットに見せるフォールスカットです。
全体的な見え方としては、3つのパケットに分けたスイングカットをして、その次に、3つのパケットに分けたコンプリートカットをしたように見えるのが理想です。2つの種類の違うカットを連続で行なったっていうことですね。
ステップに分けて説明しましょう。
- トップから1/4のパケットをスイングカットする
- 続いて1/4のパケットをスイングカットするが、小指でブレイクを取る
- 右手の残りのパケットを左手のパケットの上に重ねるが、親指付け根の膨らみの部分でブレイクを取る
- 最後に重ねたパケットの内エンドをリフルして、続けて外エンドをリフルする
- 右手親指と中指で両エンドを揃える動作をする
- 2箇所のブレイクを使ってパケットを3つに分けて、上のパケットから順にテーブルの上にコンプリートカットの形で重ねる
※この動画はスイングカットで小指ブレイクを取る方法の解説箇所から再生されます。
これでデックの状態は元通りになりますね。
ポイントは2つ。ブレイクがフラッシュしないことと、スイングカットとコンプリートカットの間にデックを揃えるアクションを挟むっていうことです。
ブレイクのフラッシュについては、スイングカットが完了した時点では、内エンドの様子はZみたいなかなり大胆な状態になっていますが、ここのフラッシュというよりは外エンド側のフラッシュに気を付けるということです。
親指・人差し指・中指でしっかりと押さえつけていないと、簡単に外エンド側にも割れ目ができてしまうので要注意です。
もう1つのポイント、デックを揃えるアクションに関しては、スインカットとコンプリートカットの間に一旦の区切りを付けるためです。「スイングカットが完了してデックが揃いました」→「さらにダメ押しでコンプリートカットもしておきます」といった形です。ブレイクを保ったままリフルをするのも、デックが揃ったことを印象づけるためですが、これは好みもありそうなのでやってもやらなくてもいいでしょう。ブレイクのままリフルをすることに関しては、リフルの解説記事でも説明しているのでそちらもご覧になってください。
大胆なブレイクを取るので全体的に急ぎたくなる気持ちもわかりますが、手首の角度と、ポイントでも言った外エンド側のフラッシュにさえ気をつけていれば、手元を凝視されていても問題なく行えるフォールスカットです。フォールスカットでしくるのは致命的なことなので、焦らず、急がず、どちらかというとスピードよりもスムーズさを意識して行なってください。
まとめ
以上、フォールスカット(オンハンド)の3つ、当初の予定では4つでしたがとりあえず3つの徹底解説でした。
今回解説した、「フォールスオープンコンプリートカット」「フォールススイングカット」「フォールストリプルスイングカット」の3つは、どれも実際の現場でちゃんと通用するフォールスカットです。
すべてディーリングポジションで始まりディーリングポジションで終わるものなので、デックを手に持った状態で、デック全体またはデックの一部を崩したくない場合にはどんな場面でも使える技法です。
テクニック的な派手さは一切ありませんが、繰り返しになりますが、それは「普通のカット」に見えることが最大の目的だからです。
こういった観客に違和感を抱かせない地味な技法こそが、マジックの不思議さに直結しているものだと思います。
最後に、これも繰り返しになっちゃうんですが、4つ目として解説するつもりだったダブルカットの変形バージョン「フォールスダブルカット(改)」は別の記事で公開します。予定通りなら来週の同じ時間にアップされるはずなのでそこまでお待ち下さい。
ではまた。
sobogaの蛇足
※該当の箇所のみ再生されます。
こういう感じの、派手でフラリッシュ的なフォールスカットは解説しないのかという声もありそうなんですが、今回の「普通のカットに見える」というコンセプトからは外れているので解説はしませんでした。
でもこれ、普通のカットに見えないとしたら、一般の観客の目にはどのように映っているんでしょうね。正直わかりませんが、以前に目撃した光景というか観客の一言が印象的だったのでご紹介しますね。
マジシャンがこのフォールスカットをした瞬間に、それを見ていた観客が発した一言なんですが、おそらくその観客はマジックの知識を軽くカジッていて、フォールスカットの直前のトップコントロールまでは目で追えていたっぽいんですね。たぶんですけど。
で、このフォールスカットをされたときに発した言葉が非常に印象的で、「あ、もうあかん。わからん」だったわけですよ。パケットの動きが複雑で追えなくなったということなんでしょうが、なんかいろいろ考えさせられる一言ですよね。
その観客にインタビューしたわけじゃないので、僕が見たこと聞いたこと以上のことはわかりませんし、他の、マジックの知識がまったくない観客はどう感じるのかとか、いろいろ言い出したらキリがないんですが、少なくともその一言を発した観客にとってはカットをしたようには見えていないのは確かです。「知らない、目で追えない、複雑なコントロールをされた」みたいな感じではないでしょうか。
こういうのをフォールスカットと呼んでいいのかな〜、うん、ダメだろうな〜というのが個人的な見解です。
一応、誤解なきように言っておくと、フラリッシュやテクニカルなものをまったく否定してないですよ。僕も、時と場合によってはフラリッシュ的なものでイニシアチブを取りに行きますからね。ただ、フォールスカットとしてはどうなの?っていう話です。
基本的には、テクニック的な「凄さ」とマジック的な「不思議さ」はあまり相性が良くないですからね。テクニックに寄り過ぎると、どんどん不思議さからは遠ざかっていきます。
カード当てで例えるなら、「観客にとってどこに行ったかわからなくなったカード」を当ててもたいして不思議じゃないけど、「演者にとってどこに行ったかわからなくなったはずのカード」を当てるから不思議なわけですよね。
目くらまし的なパケット移動の複雑なフォールスカットをいくらやったとしても、マジックの不可能設定度はまったく上がらないっていうことです。
ということで、不思議さに寄せるならフォールスカットは地味であるべき、というダメ押しのsobogaの蛇足でした。
あらためて、ではまた。
参考文献
おすすめカード
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