【魔法のレシピ #011】『グリップ/ポジション(デックの持ち方)』 – ひとつめにして最も重要な技法!正しくデックを持つことからすべては始まる♠

はいどうもsobogaです。
今回は「ディーリング・ポジション」や「エンド・グリップ」などの『デックの持ち方』を解説します。

なにを今さらと思うかもしれませんが、この基礎中の基礎をないがしろにしていて、すばらしい技法を持ったマジシャンを一人も見たことがありません。

「Trick Library」では「カードの基礎」の「グリップ」のカテゴリに分類しています。難易度は[初級]です。

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この『グリップ/ポジション(デックの持ち方)』の解説は、前述のとおり「カードの基礎」というカテゴリに分類していて、技法とは分けて記載していますが、ここではあえて技法と呼ばせていただきます。

「デックの持ち方」、特に「ディーリング・ポジション」という極めてシンプルな技法こそが「その他すべての技法」を支える、ひとつめにして最も重要な柱です。

歌舞伎の世界には「型破りと形無し」という言葉がありますが、マジックの技術においても同じことが言えます。
型(つまり基礎)ができていなければ、どんなにオリジナリティを主張したところでそれは形無しだってことです。

マジック初学者の方も、そうでなくても「これまで特にデックの持ち方を意識してこなかった」方も他の技法を学ぶことはいったん脇に置いておいて、まずは正しいデックの持ち方をマスターしてください。

ここでは、「メカニカル・グリップ」、「オープン・ディーリング・ポジション」、「ストラドル・ディーリング・ポジション」、「エレベイティド・ディーリング・ポジション」、「エンド・グリップ」の5つのデックの持ち方を解説します。

ディーリング・ポジション

まずは、カードマジックにおいて最も基本的なデックの持ち方である「ディーリング・ポジション」です。

メカニカル・グリップ

カードをディールする(配る)ときに用いるポジションのためディーリング・ポジションと呼ばれますが、特に事情がなければ基本的には常にこの持ち方をします。

実はディーリング・ポジションひとつ取っても、細かく見れば様々な持ち方があります。

例えば、中指がちょうど右コーナーに当たる持ち方だったり、すべての指が右コーナーに集まっている状態の持ち方だったり、小指が手前エンドにくる持ち方だったり色々ありますが、まずは、その中でも最も一般的な「メカニカル・グリップ」と呼ばれるディーリング・ポジションを解説します。

持ち手は利き手とは反対の手

持ち手は利き手とは反対の手です。右利きなら左手で持ちます。

「ディーリング・ポジション」はカードをディールするときの持ち方の名称で、利き手じゃないほうの手で持って利き手でディールするのが一般的ですが、たまに反対の人がいたりします。

利き手でデックを保持して利き手とは反対の手でディールする人を見かけます(右利きの人が右手でデックを保持するってことです)。トランプゲームのときなんかに、幼少の頃から無意識にそうしていたというのが理由みたいですけど、それが身体に染み付いているのであれば無理に矯正しなくてもいいのかなとも思います。
ただしその場合は、あらゆるカードのオペレーションや技法に関わってくることなので、普段が右利きなら、カードに触れるときだけは左利きとしてすべてを取り扱うという覚悟で臨んでくださいね。

今の時点で特に癖が付いていないのであれば、素直に利き手とは反対の手で持つべきです。

では、持ち手が決まったところで先に進みます。
気にするポイントは4つ。各指の位置、握りの深さ、握りの強さ、手首の角度です。

各指の位置

親指はデックの左サイドに沿う形です。指の腹から付け根までが一直線にピタッと張り付く形になります。

縦位置は親指の長さによりますが、カードを押し出したり、コーナーをリフルしたり、指先でデックを分けたりといった作業のしやすさに関わってくるので、それらを踏まえて位置を調整してください。

人差し指は観客側エンドです。

これによって人差し指以外の指の力を抜いて観客側に傾けてもカードが落ちるのを防止しています。

この状態で人差し指が観客側エンドになければ、当然カードは滑り落ちていきます。

中指、薬指、小指はすべてデックの右サイドです。

薬指を縦位置の中心に置いて、中指、小指は等間隔に間を空けて位置するように持ちましょう。

握りの深さ

握りの深さはかなり重要な要素です。思ったよりも浅く持ちます。

これはダメな例。指先がデックの上に乗るような持ち方ではないということです。

目安としては、中指、薬指、小指の飛び出し具合が、デックを右に傾けたときにカードがギリギリ滑り落ちない程度で、親指で1枚押し出そうとしたときに少し抵抗を覚えるくらいです。

そこから極弱い力で押し出せるくらいの飛び出し具合でなければなりません。

ただし、この3本の指のうち、どの指がそれぞれどれくらい出ているかは個々人の指の長さやそれぞれの長さの比率に依存します。中指と薬指の長さがほとんど同じくらいの人もいれば大きく差のある人もいたりして、手の大きさや指の長さは人それぞれなので、3本すべて均等にとかこの指はこれくらいというような絶対的なことは言えない部分です。

個人的には、小指が極端に短いので、というか小指の生え際が他の3本に比べて一段落ち込んだところにあるので小指の指先が薬指の第一関節まで届いていません。

なので、個人的なディーリング・ポジションの小指の位置は、デックの上に出ているように見えますが、実はトップカードに触れていないことも多いです。

でもこれでいいと思っています。無理やり合わせることもできますが、小指周辺の筋肉に力みが発生してしまうのでぜんぜんダメなグリップになってしまいます。

そして、もうひとつの目安としてデックのボトムと手の平の関係があります。
デックを握り込むとボトムが手の平に密着しますが、正しいディーリング・ポジションではボトムはほとんど手の平に触れず、デックと手の平の間にしっかりと隙間ができます。

触れているのは親指の付け根のとなりのこの部分だけで、

手前エンド側から向こうの景色が覗けるほど空いているのが正解です。

握りの強さ

握りの強さに関しては感覚の部分になるので言葉で伝えるのは難しいのですが、すべての筋肉、関節において一切の力みがない状態でデックを保持します。

それでいて、持ち手をひっくり返したとしてもデックが落ちていかないくらいの握りの強さです。

このディーリング・ポジションから色々な技法などにスムーズに繋げられるよう、脱力したリラックス状態を維持してください。親指から小指まですべての指がフレキシブルに動けるよう意識しましょう。

手首の角度

最後のポイントは手首の角度です。
手首の、というよりはテーブルなど水平に対するデックの角度ですが、右サイドが下に傾く持ち方があらゆるオペレーションに対して効率の良い角度になります。

いくつか例を上げると、「デックを右手に持ち替えるとき」、「カードを配るとき」、「カットをするとき」などが考えられます。
つまり、デックに対して右手で何かをするときということですが、右サイドが下に傾いている形が両手とも最小の動きがしやすい角度なんですね。

例えばカットですけど、プロマジシャンでデックの角度を水平に保ったまま、こんな無駄な動きの多いカットをしているのは見たことないですよね?

どう考えても普通にやったらこうです。

ああ、でもいたらごめんなさいですけど、きっとその人は「単に練習量が足りない」か「何も考えていない」か、または「一流の”型破り”」かのどれかです。

少し話が脱線しましたが、左手でシークレット・ムーブを行うときも同じ様に角度が付いていた方が都合が良いことが多いです。
これも例えばですが、カードを押し出してピンキー・ブレイクを取るときや、小指で弾いてピンキー・カウントをするときなどです。

どちらもデックが水平のままやるのに対して、角度を付けて行ったほうが動き自体は同じでも「観客の目に映る動き」を小さくすることができるし、見せたくない部分を見せずに技法を行えます。演者にとって都合の良い角度だってことですね。

であれば、何かを行うときだけ角度を付けるのではなく、常に角度を付けて持つべきという考えから生まれたスタイルです。技法を行うときだけ急に持ち方が変わるのは変ですからね。

そして、ここまで読んでお気づきの方もいるかも知れませんが、本質は「水平に対しての角度」ではなく「観客の目線に対しての角度」だってことです。
観客の人数、位置、目線の高さなどの要因で最適なディーリング・ポジションの角度は変わってくるわけです。
これ以上の解説は「基礎」から逸脱してしまうので他の解説に譲りますが、そういうことです。

ちょっと長くなりましたが、ここまでが「メカニカル・グリップ」の解説です。
残り4つの持ち方についてはサクッと解説していきましょう。

オープン・ディーリング・ポジション

ディーリング・ポジションからすべての指を開いた状態の持ち方です。
持ち方といっても一切グリップせずに手の平の上に乗せているだけです。

「ブレイクなど何も怪しいことはしていない」ということを暗に伝えるための持ち方です。
多用することはないですが、セリフの途中などでさりげなく指を開いて見せてブレイクを取っていないことを視覚的に印象づけます。

マジックが好きで、ブレイクなどある程度の知識を持っていそうな観客にマジックを見せるときに効果を発揮します。

「ロベルト・ジョビーのカードカレッジ1巻」に解説がありますが、この本以外で見たことはない気がします。

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ストラドル・ディーリング・ポジション

これもジョビー以外で解説を見たことがないですね。これにも名前あったんだって感じ。
「ストラドル」は日本語で「またがる」って意味です。人差し指と小指で観客側と手前のエンドにまたがっているからでしょうか。

通常のディーリング・ポジションから小指を手前エンド側に移した持ち方になります。

この持ち方をずっと維持することはあまりなく、「両手スプレッド」など手前エンド側にカードが滑り落ちやすい技法を行う直前に持ち替えます。

演技中にこの持ち方を意識するようなことがあってはなりません。
両手スプレッドなどをするときには、完全に無意識なままスムーズにこの持ち方に移行できるよう身体に染み込ませる必要があります。

エレベイティド・ディーリング・ポジション

これもジョビーの本だけでしか見たことがありません。カードカレッジを読んでいないマジシャンにはこの名前を言っても通じないでしょう。

「elevated」ですから、「上に持ち上げられた」ディーリング・ポジションですね。
「リフトアップ」のほうが日本人には伝わりやすいと思いますけど。

すべての指の指先でデックを支え、手の平から大きく離した持ち方で、デック全体をはっきり見せたいときに使います。
オープン・ディーリング・ポジションと同じく「何もやってないよ〜」をデックの持ち方だけで伝えることができます。

通常のディーリング・ポジションからの移行のしかたとしては、両手を使ってもいいですが、できれば片手でできたほうがいいですね。
ボトムに曲げた人差し指を当て、そこから人差し指を伸ばすことでリフトアップします。

これはカードカレッジには書かれていませんが、小指をストラドル状態にすればさらに安定感が増しますね。

その状態から「ワンハンド・カット」を行うことも可能です。

エンド・グリップ

最後は「エンド・グリップ」で、これだけ右手(利き手)側の持ち方です。
テーブル上のデックを取り上げるときやディーリング・ポジションから右手に持ち替えるときなどにこの持ち方をします。手前と観客側の両エンドをつかむ持ち方なので「エンド・グリップ」ですね。

別名「ビドル・ポジション」とも呼ばれますが、どうなんでしょうね?今のマジシャンでこの呼び方をする人いるんでしょうかね?
わからないですけど、「ビドル・ポジション」て言われたら、頭の中で「ああ、エンド・グリップのことね」と変換すればオーケーです。

さて、指の位置を細かく見てみると、親指が手前エンドの中心からやや右寄り、中指は親指のちょうど向かい側、薬指はコーナー付近、小指は薬指に添えている形です。そして人差し指は自然に曲げた状態でトップに軽く触れています。

指の角度には要注意です。
指が垂直に当たるような角度で持つと、肘を大きく上げるか、手首を不自然に曲げるしかなくなり不格好になってしまいます。肘の高さも手首の角度も自然さを保てば、必然的にデックに対して指の角度がこれくらいになるように持つことになります。これが正しい持ち方です。

カバード・エンド・グリップ

こちらは「エンド・グリップ」のバリエーションで、通常のエンド・グリップと比べてかなり深い持ち方です。名前のとおりデック全体が手で覆われた形です。

中指が観客側左コーナーを隠すほど深く持ちます。

主にパケットの場合が多いですが、これによって観客が認識しているよりも多い枚数や少ない枚数を持つときに、その枚数を隠すことができます。

また、別の解説動画を上げていますが、「リボン・スプレッド」をするときにもカバード・エンド・グリップに近い持ち方をします。これの詳細は下の動画をご覧ください。

無意識レベルまで昇華させる

はい、お疲れさまでした。
デックの持ち方だけで長々と解説してきましたが、それだけ重要度が高いと思っているわけです。

これ以上、動画が長くなってもアレなので今回は省きましたが、ディーリング・ポジションのバリエーションは他にもまだあったりします。
まあでも、あまり基礎的なことではなくて、「この技法を行うときはこのディーリング・ポジションが向いている」みたいな、特定の技法特化型なディーリング・ポジションだったりするので、機会があれば他の動画で、その技法と絡めて紹介できればなと思います。

さてさて、これで終わりますが、ここでもあえて技法と呼ばせてください。
「ディーリング・ポジション」はあらゆる技術の土台となる技法なのでとことん意識して取り組んでいただきたいところです。
それこそデックの持ち方のことなんて1ミリも気にせずに、いついかなるときでも正確に同じ持ち方ができるほど無意識レベルまで昇華させることができれば、僕もあなたも一流に近づくことができるのではないかなと思っています。

ではまた。

sobogaの蛇足

本編で解説しようかと思ってやめた件があるんですけど、「エンド・グリップ」の別名の「ビドル・ポジション」のことです。

たぶんこれ、『エンド・グリップのことビドル・ポジションていうヤツおっさん』的なものだと思うんですが、正確性を求めるなら「ビドル・グリップ」が正解です。
英語圏では「biddle grip」で通じます。「biddle position」でググっても何も出てきません。

で、「ビドル(biddle)」ってなんじゃいってことですが、人の名前です。「ビドル・ムーブ」という技法を考案したとされる「エルマー・ビドル(Elmer Biddle)」の名前が由来しています。

そして、その「ビドル・ムーブ」を行うときのデックやパケットの持ち方がまんま「エンド・グリップ」の形なわけです。なのでこの持ち方は「ビドル・グリップ」(日本ではなぜか「ビドル・ポジション」)であるということです。「Grip for Biddle-Move」ってことですね。

もうお気づきかと思いますが、sobogaは「エンド・グリップ」って呼ぶ派です。

一番の理由は、例えばですけど、ビドル・ムーブを説明しようとしたときに『A ビドル・ムーブを説明します。まずはビドル・グリップで持って…」「B ちょっと待って、ビドル・グリップって何?』『A えっと、ビドル・グリップっていうのはビドル・ムーブのときの持ち方です』『B …なに言ってんの?』っていうめちゃくちゃ再帰的な構造が気持ち悪いっていうことです。一般名詞や動詞ではなく人の名前が付いた技法の要素に、さらにその名前を付けちゃダメだろうっていう。

べつに人名に限らないですけどね。『ダブル・リフトのときはダブル・リフト・グリップで持つ』くらい気持ち悪いです。ダブル・リフト・グリップなんてないですけどね。

もっと言えば、そもそもビドル・ムーブのためだけの持ち方ではないし、日本的な「ビドル・ポジション」ていうのが誤って広まった名称っぽいっていうのも大きな理由ですね。

てなわけで、今後も魔法のレシピではこの持ち方は「エンド・グリップ」と呼ぶよ、というsobogaの蛇足でした。

あらためて、ではまた。

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